看取りの医者

  開業している大学時代の同級生である平野国美医師が、小学館から本をだしました。もし、書店などで見かけましたら、手にとってごらんいただけると幸いです。
  平野先生は私と同じ呼吸器内科で、一時期同じ病院で働いていたこともありますが、現在は開業して訪問診療専門で在宅の患者さんを診ています。
  Amazonのターミナルケア部門で1位、ノンフィクションで48位になっていました。

 昔、人は病気の療養は自宅でしていたものですが、診療所が増え、そして病院での医療が高度になるにしたがって、「医療を受ける場所として」の「自宅」という場所が忘れられてきているように思います。医療というと病院のことばかりが目立ちますが、診療所での医療が戦後の安定した医療を支えてきたことを忘れてはなりません。そして、自宅で療養する患者さんを支えるという医師のあり方も忘れてはならないと思います。

 私も、一時期訪問診療をしていたことがあります。その時のことをおもいだすと、こまごまとしたことも多く、結構大変なことも実はあるのだろうと思いながら、彼の人間性で地域の患者さんとすごしているのは素晴らしいと思います。

 私が、医学部に入ったのは、いつも診てくださっていた開業の先生の影響を強くうけたためです。医学部を卒業したら早い時点で、その先生のように一医師として診療所で診療をするようになろう思っていました。いつの間にか現在のような仕事をしていますが、医学部に入った時の気持ちは今も自分のスタート地点として心に強く感じています。自分の来た道を振り返ると、平野先生の生き方はうらやましくも感じます。 

 最近、私の母校の先輩後輩には、医者という範囲をこえて活躍する人が増えてきたように思います。たとえば、メディアでは民主党の参議院議員(足立議員厚生労働政務官)の発言がとりあげられていますし、また木村もりよ氏も様々な番組で発言を見聞きします。また、民主党の参議院議員として同窓生がいます。さらに現在、司法修習生の後輩がいます。また、医薬品の審査をしている同窓生もいます。

 もちろん、大部分の同窓生は臨床医として病院や診療所で働いているのですが、筑波大学は普通の臨床医の仕事から離れた人も多く輩出するような幅広い教育をしていたのかもしれないと思います。

| | コメント (0) | トラックバック (0)

「病院再生のPFIの利用について」国際医療福祉大学大学院(東京・福岡・栃木・小田原)

平成21年10月3日に、国際医療福祉大学大学院乃木坂スクールで行われる「病院再生セミナー」で「病院再生のPFIの利用について」という講義をする予定になっています。

このセミナーは、一般の受講者も参加する大学院の講義で、全15回の講義のうちの1回をお引き受けしたものです。

セミナーの全体を通じた意図は、主として地方自治体病院を例として、病院の(継続的)改善を越えた、再生という作業を学ぼうとするものです。この病院「再生」という言葉は、様々な使われ方をしていて、場合によっては実態は病院Assetの分割売却にしかすぎない行為にも用いられることがありますが、このセミナーでの再生という意味合いはリエンジニアリング、跳躍的改革という意味合いで捉えられています。

他の講師陣を拝見すると実務で経験豊かな方がご出講されるようですので、(私はたいしたことはありませんが)、聴講される方には有益なセミナーになるのではないでしょうか。

このセミナーは9月19日から毎週土曜日に行われ、主会場は、青山ですが、国際医療福祉大学の大田原本稿、小田原・福岡天神・大川のサテライトキャンパスでも受講できるそうです。また、インターネットで中継もされるとのご案内を頂いています。

 

| | コメント (0) | トラックバック (0)

福岡市立こども病院での部分的PFI導入

福岡市は市立こども病院の整備をPFIにより行うことを断念し10割起債で行うという方針を以前示していました。(本Blog別頁参照)

9月 3日付け西日本新聞の記事「福岡市こども病院PFI 効果17億円に下方修正 建設など8業務に限定 」と、9月11日付け記事「こども病院PFI見直し 「適正か疑問」「変遷に不信」 福岡市議会 厳しい指摘相次ぐ」によれば、福岡市はPFI対象事業を施設設備の設計・建設・保守管理に絞り「民間資金1割、起債9割」として、部分的にPFIを導入する方針を市議会に説明したとのことです。

私は福岡市のPFI事業について詳しく存じませんが、PFIだから「よい」「だめ」という議論ではなく、どのようにPFIという契約手法を活用するかという視点で、事業を検討されているようですので、そのことは本来あるべき姿として結構なことだと思います。これまでの経緯を拝見していると、福岡市は、今後も十分な検討を進めていかれることと思います。

ただ、PFIを導入するか否かという部分に報道も市議会も、そして市も目が向いているように思われますが、事業規模やどの程度の負担を一般財源からどのような目的で行うのかという、本来地方自治体が医療機関経営を行う場合に十分検討するべき事項は、結果としてしっかり検討されているのでしょうか。報道で漏れ聞く数字を見て、そして先日福岡に行った際地域の病院の先生からうかがった同病院の位置づけ、診療圏、医療内容を思い出すと、長期的な福岡市の負担を思わずにはいられません。

どれほど手続き上正しい、そして政治的に合意できるプロセスを経ても、結局、結果が不適切では、公企業の経営としては本来の受益者の利益には結びつきません。 目的とする医療がきちんと行われるためには、現実的で将来を見越した事業計画が不可欠ですし、特に事業リスクを管理することが、環境の変化への余力を作ることになり、積極的な公共サービスの持続的展開に不可欠です。

10月3日に、国際医療福祉大学大学院乃木坂スクールで行われる「病院再生セミナー」で「病院再生のPFIの利用について」という講義をする予定になっています。

今週、福岡に行くものですから、時間があれば、この講義の準備としてもまた、自分の勉強のためにも場所や周辺の医療機関などの様子を見てこようかと思います。

-------------------------------------------------------------------

以上のように書いていたところ、本日(14日)この事業に関する資料が届きました。

| | コメント (0) | トラックバック (0)

タミフルと他の薬(ワーファリン)の飲み合わせ

8月18日に、ワルファリン(血液の凝固を抑制する薬)を服用している人にタミフルをあわせて飲むと出血を起こす可能性があるので注意が必要との情報が、イギリスで医薬品規制局(Medicines and healthcare products regulatory agency :MHRA)から出されています。
この注意に対応するような事例は、日本でも以前熊本の病院から報告がされています。

ワルファリンの作用が強まり、出血する可能性が高まるのは、タミフルのせいか、発熱やインフルエンザウイルス感染に直接よるものかはまだ調査中とのことです。まだ原因については不明な点も残されているとしても、ワルファリンを使っている患者さんがインフルエンザで来診した場合には、INR(ワルファリンの効果の指標)を測定するなどの対応をすることが望ましいのでしょう。

日本でも、心臓の病気や脳血管の病気の人の中でワルファリンを継続して飲んでいる患者さんが相当います。しかし、現時点で、この注意については日本国内ではほとんど知られていません。これから多くの患者さんにタミフルが処方されようとしている時期ですから、このような相互作用などの情報はすばやく、臨床診療を担当する医師の手元に届くように、製薬会社も行政機関も努力する必要があります。

ECDC(EUのCDCに対応する機関)のニュースレター

NHSの見解

ワルファリンとタミフルの相互作用に関する報道

日本での報告例

  • 山室蕗子、近藤元三、前田俊英、進尾恒美、釘宮史仁、橋本洋一郎(熊本市熊本市民病院):「ワルファリンとリン酸オセルタミビルの相互作用が疑われた症例  」 日本医療薬学会年会講演要旨集   15巻276頁

| | コメント (0)

新型インフルエンザ WHOガイドラインと厚生労働省の指針の差

新型インフルエンザが流行しています。

現時点で厚生労働省の示している指針では、重症化する可能性のある基礎疾患を抱えた人等(妊婦を含む)には早期からタミフルやリレンザを使うことになっています。WHOも8月20日に新しいガイドラインを発表していて、この間には対処に若干の差があります。(あまり大きな差はありません。)

しかし、20日にWHOが発表したガイドラインは、先進国だけではなくすべての国を対象としたものですが、厚生労働省の現在の指針より具体的な記述も含まれています。

そのなかで当然といえば当然ではあるものの、見逃せない記述は次の部分です。

---  WHO Recommended use of antivirals より部分訳 ---------------

世界的に見て、およそ40%の重症例は発症前は健康だった小児および成人(概ね50歳未満)で発生している。これらの患者には、病状が突然かつ急速に進行する患者も含まれていて、このような状態は発症後5日または6日目に見られる。(中略)
臨床医、患者その他家庭での治療にかかわる人は、より病気が重症に進行していることをしめす危険なの兆しに注意を払う必要がある。その上で、オセルタミビル(タミフル)による治療を含む対応を緊急に行う必要がある。 

病気が重症であるかまたは悪化する場合に、臨床医はオセルタミビル(タミフル)を通常の処方量より大量に使用したり、長期間使用することを考慮してよい。

-------------------------------------------------------------------

以上を踏まえると次のようにいえます。

新型インフルエンザの治療は、原則として自宅療養として(在宅で)行われています。したがって、診療する医師は(新型インフルエンザに対する簡易検査キットでの検査は感度が高くないことを考慮して)健康な成人や小児が罹患した場合でも重症化する可能性があることと、発症後5・6日目に増悪した場合の注意点をしっかりと指導する必要があります。

臨床診療を担当する医師は、重症化した場合のタミフルの使用量は、過去の論文・専門家の意見・製薬会社の見解を総合して、保険診療上(添付文書上)の常用量を超えて投与することを検討する必要があります。(注)

新型インフルエンザに関する情報

--厚生労働省のページより 一部改変----
○ 患者
→ 入院措置ではなく、外出を自粛し、自宅で療養
○ 基礎疾患を有する者等
→ ・ 早期から抗インフルエンザウィルス薬の投与
→ ・ 重症化するおそれがある者については優先的にPCR検査を実施し、入院治療を考慮
○ 学校等の集団で複数の患者が確認された場合
→ 必要に応じ積極的疫学調査
○ 医療従事者・初動対処要員等(基礎疾患有り)
→ ・ ウイルス暴露の場合は予防投与
→ ・ 感染の可能性が高くなければ職務継続可能
--------------------------------------------------------

参考

International SOSの新型インフルエンザに関するページ(良くまとめられている。)

http://www.internationalsos.com/pandemicpreparedness/CatLevel.aspx?li=1&languageID=jpn&catID=1&l=1

厚生労働省 新型インフルエンザへの対処方法(医療従事者向けのページもある)
http://www.mhlw.go.jp/bunya/kenkou/kekkaku-kansenshou04/inful_taisho.html

WHO pandemic influenza (2009) call to action
http://www.who.int/csr/resources/publications/swineflu/call_action/en/index.html

Recommended use of antivirals
Pandemic (H1N1) 2009 briefing note 8
http://www.who.int/csr/disease/swineflu/notes/h1n1_use_antivirals_20090820/en/index.html

(注)添付文書の用法を超えて薬剤を投与することについての法的責任について

過去に医療過誤訴訟で、医薬品の添付文書に記された観察上の注意の条件を満たさなかことを根拠として、医師の過失を事実上の推定を行い、医師側敗訴とした事例があります。

重篤な患者にタミフルを投与する場合、元々重篤なのでどのような治療をしても死亡などに至る可能性が意識されるでしょう。そのような時に、診療を担当する医師は、上の事例を意識して「患者や家族から添付文書の用法を超えて薬剤を投与したことで有害反応が起きたとの主張をされるかもしれない」、さらに「薬剤過量投与による有害反応について医師側有責と裁判所に判断されるかもしれない」と、考えるかもしれません。

そのように躊躇するのは、現在の日本では当然ですし、その結果医師が添付文書通りの量のタミフルを投与するにとどめたとしても、非難される筋合いにはないと私は考えています。裁判例や報道を通じて、国民がこのような対応をすることを望んできたのですから。私は、冷淡ですから、国民が選んだ医療しか、国民は受けることが出来ないのは当たり前だと思うのです。

ただ、私が新型インフルエンザで重篤な状態にある患者の診療をすることになったら、添付文書の投与量を超える量の投与を検討し、必要でしたら投与すると思います。それは、そうすることが倫理的に正しいと思うからです。

| | コメント (0) | トラックバック (0)

若手外科医数は増えるとは期待できない。

日経メディカル2009年4月号59~61pageに特集「外科崩壊」という記事が掲載されていました。(購読していない雑誌なので、最近知ったのですが)この中では、「進む若手医師の外科離れ」という章がおかれ、外科医不足の原因として、勤務が厳しいことなどをあげています。しかし的外れではないかと感じざるを得ません。

(若手外科医不足は、女性医師が外科を選ばないため)

この記事の表では、29歳以下の外科医は1996年には3229人であったのに、2004年には2184人であることを赤字で示して危機的状況であると訴えます。しかしこれは女性医師が増えたことによる当然の結果にしかすぎません。

女性医師が外科をほとんど選ばないことと、女性医師がいまや新卒医師全体の3割程度を占めていることを考えれば、若手の外科医の数が従来の7割程度になるのは、当然、予想できることです。

(若手外科医の増加は期待できない)

男性医師が、外科を選択する比率は、顕著には変わっていないというのが、2004年までの医師歯科医師薬剤師調査個票データを用いた分析の結果です。

以上を踏まえ今後を予想すると、「男性医師の数が増加する」か、「女性医師が外科を選択するようになり、かつ、女性医師が男性医師と同様に働くだけの労働環境が整備される」かしない限り、若手外科医は増えることは期待しがたいと考えられます。

(外科医療を改善するには)

外科医数の増加が期待できないとするならば、外科医がより外科手術に専念できる環境を整備しなければ、外科医療を維持することは出来ません。

たとえば次のような対策が考えられます。

1)化学療法など外科医以外でも出来る医療行為を、内科医など他の診療科にゆだねる。

2)麻酔医を増加し、麻酔医の増加で補えない場合には、麻酔に特化した看護師を教育訓練し、配置することで、一日一外科医あたりの手術件数を増加させる。

3)外科医の給与を、疾病・手技毎にさだめる平均在院日数によりスライドさせるなどの、インセンティブを与え、一医師当たりの手術件数に対する関心を高める。

思い返せば、これらの対策は、いずれも米国の病院で取られている方策でした。

| | コメント (2) | トラックバック (0)

文科省が本日医学部定員増を発表しました。

偶然、昨日早朝に、新卒医師で女性の占める比率の変化に基づいて、医師の労働力を維持するためには医学部の定員増を15%程度以上増加する必要があると記しました。

本日、朝、文部科学省は来年医学部の入学定員を増加させ、2007年に比べて約16%増とすることを発表しました。文部科学省は5年後に再検討するとのことです。

この増員規模は、既に記したとおり、新卒医師で女性の占める比率の変化に対応したもので、妥当な規模であるといえます。

注目すべきは、「文科省は5年後に再検討し、必要があれば上積みを図る構え」と報道sれている点です。来年入学する医学生は、5年後まだ医学部の学生であり、医師にはなっていません。したがって、医師数不足解消には全く影響を及ぼしませんので、再検討の余地は無いはずです。では、何をもって上積を図るかどうかを判断するのでしょうか。

医学部新入生に占める女子学生の比率は、年々変化しています。これが5年後どのようになっているかを再度検討することで、医師労働力の調整を図る必要があります。たとえば、予想をこえて医学部の女子学生の比率が現在よりさらに高い率となれば、医学部の定員は増加させることを検討しなければなりません。このような点で、この文部科学省の談話・方針は適切といえます。

| | コメント (0) | トラックバック (0)

原因を見ず対症療法を求める誤り(水野氏の医学部定員に関する記事について)

 社会保険旬報2009.3.21号に、水野肇氏「消費税を上げる前に」という寄稿をしています。この冒頭で、「医師不足の根本的問題」という章をもうけて、医学部定員の増加を「実際の戦力となるのは8年後である。こんな悠長なことをしていて間に合うはずがない。」と批判しています。

 別な部分では、「医師不足対策は基本的な考え方が確立していないのも問題である。最も重要なのは、不足している医師は医療のどの分野を担当している医師で、これらの医師の養成はどのようにおこなわれ、不足を解消するためにはどういうことをおこなえばよいのか対策が何も立っていないことである。」ともしるしています。そのうえで「女性医師の増加が医師不足にどのようにからんでいるのかも、このさい考えてみるべきである。」と書いていました。

 「女性医師の増加」という「基本的問題」として、不足している医師の担当している分野と養成にかかわり、医学部の定員増が不足している医師数問題を時間はかかるが根本的原因に対する対策となっていることは、私は昨日の記事で紹介した通りです。

 しかし、水野氏はこのようなことを理解しないまま医学部定員増を批判しているのです。これでは、疾病を診断せず、疾病を基本的病態から治療する治療方法を、対症療法として短期的に有効ではないと批判しているようにみえます。

 近年、医師不足が顕在化するには、長期的な医師のデモグラフィックな変化によって、病院で勤務する医師の労働力が相対的に減少している背景がありました。この背景の上に、新臨床研修制度が導入されたため、研修医が都市部の臨床研修指定病院や大学病院に集中し、医師というものは研修した地域や領域で活躍することになる場合がおおいため、地方にする医師数が結果的に減少しました。このため、地方では基幹病院や生命に直結する診療を行っている大学病院に医師を集約せざるを得なくなり、そして病院で勤務する医師数が顕著に不足するに至ったのです。

 したがって、短期的な対策としては、卒後臨床研修制度の見直しは不可欠ですし、そして長期的な対策としては医学部の定員増(あるいは、診療科毎の医師定員設定、医学部入学定員の性別設定など)が合理的な対策となります。
 もちろん医学部の定員増の規模は適正な規模としなければならないことは、既に述べたとおりで言うまでもありません。

2009.09.14タイトルがミスリーディングなので、修正しました。

| | コメント (0) | トラックバック (0)

法務部門の強化

 病院PFI事業に見られるように、地方自治体には、民間企業と互角に折衝して適切な契約を結ぶだけの交渉力に乏しい場合があります。
 そもそも、医療機関は、医療という産業の特性上、専門性のきわめて高い職種の人で構成されているために、経営上業種を問わずに必要な財務や法務の知識経験に乏しい傾向があります。
 さらに、国公立の医療機関となると、紛争を前提とした厳しい対応を想像することすら、職員には困難な場合があります。(これは国立大学病院にも当てはまる弱点です。)

 私は教員でありながら、病院の経営にかかわる仕事をしている関係上、あまりに問題のある契約に苦労してきたため、病院の法務部門を十分に強化することが、必要だろうと考えています。

 また、医療事故防止のために医療行為の安全性を向上させる目的で、病院に専任医療安全管理者や医療安全管理部が置かれるようになってきています。このような人材や部署は、医療事故を防止するのが仕事であるにもかかわらず、しばしば起きてしまった医療事故の対応をすることを求められ多くの時間をこれらに割いている場合が見受けられます。

 本来、起きてしまった医療事故の対応は、その医療を担当した医療従事者に加えて医療機関としての意思形成をする経営者に法務部門が加わり対応を検討するべきものです。このような医療事故に特化した法務部門が、米国の病院で古くから活動していたRisk Management部門でした。

 米国の病院のRisk Management部門は、古くはJD(法学士あるいは法務博士に相当する)が責任者として配置される例が多く見られています。Dana Fabar Instituteの医療事故を契機に、米国内で医療安全を推進する重要性が認識され、Risk Management部門の機能に医療安全が付加され、そして現在では医療安全部門が明確な役割を与えられるように至ったという歴史的経緯があります。

 わが国でも、医療事故に対する対応に法律家が積極的に参与することは、迅速で適切な対応を進める上で重要だと考えます。

 日本の病院では、このような医療事故に対応するにあたり、法的な判断をする能力に乏しいという弱点を抱えており、これが総合的にマネジメント力の不足を導いていると感じています。

| | コメント (0) | トラックバック (0)

医師「不足」と女性医師の増加の関係

 近年医師不足が問題となっています。特に、地域の第一線で患者さんの診療に携わる病院での医師不足が話題になっています。昨年結果を公表した研究で、2004年までに実施された医師歯科医師薬剤師調査のデータ用いて医師数の変化の実態を示しました。先週、ある雑誌の座談会に招かれ、その席上で分析結果の一部をお話したのですが、ご出席の方はご存じなかったようで、驚いていらっしゃいました。

 国立国会図書館 ISSUE BRIEF 産科医療の問題点NUMBER575(2007. 3.22.)で引用された私の論文の中で、既に女性医師が30歳~40歳で一時的に診療から離れることによる労働力の減少を指摘しています。しかし、女性医師が増加することは、このような変化以上に大きな医師労働力への影響があることがわかりました。このことは、女性医師の比率は、女子医学生の比率をそのまま反映した、医師の人口構造の問題ですから、医師労働力の不足を改善するのは小手先の政策では対応が困難な課題であることをしめします。

 医師の偏在という言葉で、医師の総労働力は十分であるという主張が、有識者という人々から示されてきましたが、実際には医師の人口構造の変化に伴う実質的な労働力の変化をともなっていたのであり、総労働力についての定量的な検討がされてこなかったことに、強い疑問を感じます。「偏在」という主張を強調したのは不適切であったと考えます。

産婦人科の場合

 診療科で見ると産婦人科で医師の不足が問題となっていますので、これを例にとりましょう。大学病院以外の病院で勤務する産婦人科医の数はどのような推移をしているのでしょうか。

  研究報告書(厚生労働科学研究費補助金「医師・歯科医師数等の将来予測に関する研究」平成19年度総合研究報告書)の23ページ目(PDFファイル25ページ目)以下に産婦人科医の年度別・年齢別・性別の人数を密度図として示しましたので見てください。

 この図をみると、近年産婦人科では、40歳台以下の男性医師が急激に減少し、代わって女性医師増加していることがわかります。そして男女計で見たときに、産婦人科医はそれほど大きく減少してはいないことがわかります。
 2006年、2008年のデータは、分析することができませんでしたが、2004年までのデータで言えることは、産婦人科医の性別構成をみたとき、急激に女性の比率が上昇しているということです。

 主として働いている場所は医師・歯科医師・薬剤師調査でわかります。しかし、非常勤か常勤かの区別はわかりません。このため、働いている人が、どの程度の時間働いているのかはわかりません。しかし、別な調査・分析で、女性医師は働き場所として病院よりも診療所を選ぶ傾向があることがわかりました。また、同じ非常勤医でも、男性と女性では勤務時間に差異があり、女性の非常勤医の方が勤務時間が短いようです。

 これらの結果を総合すると、病院で勤務する産婦人科医の「不足」と呼ばれる現象は、医学部に入学する学生に女性が占める割合が増加したことにより、産婦人科医で女性が占める割合が上昇したことに関連し、おそらくは女性産婦人科医の働き方が男性産婦人科医とは異なることと関係があると推測されます。

 病院で働く産婦人科医は、統計上増加しています。しかし、女性医師が増加して働き方が変わったために、時間外の診療が手薄となったり、また非常勤医が増加し実労働時間が短縮していることが示唆されます。このため、医師の労働力が不足するに至っているものと推察されます。

外科の場合

 産婦人科に引き続いて外科の医師数の図を報告書に乗せています。
この図をみると、外科では病院に勤務する若手の男性医師が減少する一方、女性医師ほとんど増えていないことがわかります。

 この結果、全体として若い外科医が減少しているということがわかります。数年たつと、外科で医師の不足は顕著になり、大きな社会問題になるのではないかとの推測がされる結果となりました。

勤務場所、診療科と性別

 このように、病院・診療所別、診療科別の医師数は、医師の男女構成比により大きな影響を受けることがわかりました。

 女性医師は、結婚することにより配偶者の転勤の影響をうけて勤務する場所が動くことになるでしょう。また、高等教育を受けた医師は子弟の教育を考えると子弟の教育には熱心となりますし、特に母親である女性医師は子弟の教育環境として充実した地域を勤務地を選ぶ傾向が強くなる可能性があります。
 女性医師と結婚した男性医師の勤務地選択でのイニシアチブも、家庭内でもお互いに医師として尊重しあう環境にあると推察されますから、男性医師・女性医師が合意できる場所である都市部に勤務地が集中するという結果を導く可能性があります。

 このように、近年4割程度を占めるようになった女性医師の増加は、過去の医師の診療科別・業務の種別(働き方)とは違う医師の分布を示すことになり、実際の医師の労働力に影響を及ぼしていると推察されるのです。そして、特定の診療科や地域で医師の(労働力)不足が顕在化するものと推察されます。

医学部の入学定員との関係

 医学部の入学定員増について、医師の中でも賛否両論があるようですが、女性医師の働き方は男性医師と同じでないという事実をふまえたとき、医学部の入学定員増は必要不可欠であるといわざるを得ないと考えます。ではどの程度まで増加させるべきなのでしょうか。

 労働力という点からだけ見たときには、おそらく今回の入学定員増前の少なくとも1.15倍程度を越えて増加させる必要があると考えています。

理由は以下のとおりです。

極大雑把に

(全医師が男性で構成されていた場合の労働力)

=((男性医師の平均的労働力)×(男性医学生の比率)+(女性医師の平均的労働力)×(女性医学生の比率))×(新卒医師数の増加率)

とします。

生涯を通じた(女性医師の平均的労働力)を男性の70%とした、新卒女性医師の割合を4割とした場合、医学部入学定員増加前の定員に対する増加後の定員の比をAして、

(1.0X0.6+0.7×0.4)×A=1.0

と置き、この式をAについて解くと、A≒1.14となります。つまり、いま述べた前提で、女性医師の増加に対応するためには、14%程度の医学部定員増が必要ということになります。

女性は、病院より診療所を働き場所として選び、診療科として外科などを避け、非常勤医として働く場合の時間が短いとすると、最も女性医師の労働が減少する診療科での医療需要を満たすためには、14%増より多くの医師を養成することが必要なるのでしょう。その程度は、現在具体的な根拠はありませんが、25~30%増程度になるのではないかと想像しています。

もちろん、医学部に入学する学生に性別で制約を設けたり、診療科の選択を制約させるなどということが行われれば、以上で述べてきた影響は軽減されます。しかし、このような制約は、憲法上の権利である職業選択の自由への制約になりますので、広範な議論が不可欠となり軽率に実施するべきものではありません。

 

 先週、東京大学公衆衛生学の小林 廉毅教授と石川県立看護大学でお会いし、昼食をご 一緒しました。小林先生も私が使用したのと同じ素データを使い、医師の地域分布についての研究をなさっていて、先ごろその研究を論文として公表されています。しかし、この男女構成比が、診療科構成に及ぼす影響については気付いていらっしゃらない様子で、いままでここで紹介した研究結果について食事をしながら、お話をしました。(小林先生は私が筑波大学にいた頃、筑波大学教授として在任しておられて、数年ぶりにお会いしました。)

 もっと、このような要因について、いくつかの学会・研究会でこの結果は報告し、社会保険旬報でも産婦人科医について記事を書いているのですが、もっと、大きな声でいろいろな方にお伝えしなければならないのかもしれないと反省しています。

なお、本研究の結果概要は、2007年11月末に厚生労働省医政局総務課に提供している。(偶然、省内での検討の時期と一致していたのかもしれないが、医師数の不足を明確に厚生労働省が発言し始めたのはこの直後だった。この研究が、医師数に関する考え方の整理に若干でも役立ったのなら、厚生労働科学研究として一定の役割を果たしたといえるだろう。)

| | コメント (0) | トラックバック (0)

«生駒市で 市立病院設置条例が可決されたそうです。