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2008年1月

病院にPFI事業は不適切なのか(上)

公共事業への国や地方自治体などの支出を抑えるため、国や自治体が自ら事業をするのではなく、民間事業者に事業の全部あるいは一部を委託する動きが広がっている。このような手法の一つにPFI(Private Finance Initiative)という手法がある。

(近江八幡の病院PFI)

滋賀県近江八幡市にあった近江八幡市民病院は老朽化が進んでいたため、建て替えが計画された。計画当時、PFIという手法が注目されるようになり、この病院の建設の際にもPFIを導入するか検討され、結果としてこの病院の新築移転は病院にPFIを応用する先進事例となった。近江八幡市民病院は、近江八幡市立総合医療センターと名前をかえて、平成18年10月に旧敷地から離れた田んぼの真ん中に、新築移転した。建設された病院施設は、広々とした2階までの吹き抜けのあるロビーがある、廊下の広々とした、落ち着いた高級感あふれる病院となった。

(違和感はオープン前から)

新築された医療センターがオープンする前、平成18年7月のある夕方、私は古びた近江八幡市民病院の外来を歩いていた。その前日、近江八幡市が病院事業管理者を公募しているという記事を新聞で読んだことが、病院を訪れるきっかけだった。

古くなった病院が建て替えられると、設備が新しく、見た目が美しくなったことで外来患者の数は増加するのが普通だ。市の職員にしてみれば、このような新しい施設の責任者となることは、努力少なくして患者数が増加することは約束されているため、「おいしい」ポストとなるように思える。したがって、病院事業管理者という、市の職員としては相当に高い処遇をされるポストに関心を寄せる職員は、現任者で多いはずだ。それを「公募」するというのはどういうことだろうか。

考えられる可能性は2つ。(1)有能な人を「公募」で探してこなければならない程の大きな事情がある。あるいは、(2)病院の運営には、専門的な知識と経験が必要であると心から理解して、そのような人材が市内部にはいないと判断し、つてを頼っても見つからなかったので「公募」することにした。

正直なところ、もし公募する理由が(2)ならば、自分の年齢を考えれば採用される可能性はあまりないだろうが、応募してみようかという気持ちも少しあった。

当時の(旧)市民病院の外来は、たしかに老朽化し、薄暗く、狭く、建物がつぎはぎとなっていた。外来の一角には、売店と休憩スペースがあり、公園の売店や休憩所のようなつくりになっていた。確かに、古びていたものの、改築を繰り返して丁寧に建物を使ってきたのだろうと伺われ、掲示物からは患者を思いやる職員の配慮が伺われ、建物としての寿命は付きつつあるが、そこで働く人々と医療は好ましいもののように思われた。

つぎに、建築が終り、内装工事や設備の導入がおこなわれている新病院を見にいった。見るといっても、まだ診療が開始されてはいないので、外側からだけだが。旧市民病院からタクシーで新病院へ向かいその建物の姿が見えてきた瞬間、公募がされた理由は(1)なのだろうと確信した。明らかに市の規模に比べて、新病院の建築規模は大きく、そしてそこに投じられた費用は、相当なものだと感じた。新病院の外観をみて、呆然とし、そして近江八幡市の将来を心配した。

(事業収支見込)

自宅に戻ってから、近江八幡市の病院事業収支見込をWEBで見つけて、再び唖然とした。それは、平均在院日数の短縮と患者診療単価の伸びが現実的とは考えにくかったためだ。

この収支見込の通りに事業が展開されるとすれば、(a)商圏(診療圏)の半径を3倍程度以上にするか(b)これに匹敵する延べ患者数を、他の医療機関と協調して役割分担をすること確保しなければならないと見込まれた。(b)を実現するのには、長年の信頼関係と、時間をかけた機能分担を図らなければならないが、事業収支見込では急激な収入増を見込んでおり(a)を想定しているように読み取られた。

急激な商圏(診療圏)拡大を図るにあたっても、近隣市町村にある病院も急性期病院化を図っており、単純に患者を集めることは困難だと思われた。また、患者も、できれば近い病院にかかろうとする傾向があるため、何か特徴があるか、あるいは特に信頼を集める背景が無ければ患者は集まりにくい。

この資料をみた人で、病院事業管理者に応募する人はいるのだろうかと、疑問に思いながらも、少なくとも自分が応募することはないと心を決めた。

そのような経緯のある近江八幡市立総合医療センターと、よもや平成19年に「あり方検討委員会」の委員として、その経営難を接点としてお付き合いすることになろうとは、当時は思いもよらなかった。

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激流の中の10年

 1991年に医学部を卒業してから、初めの10年ほどは、分子遺伝学や免疫学の進歩を踏まえた医学の進歩は目覚しいものでした。しかし、、それを取り巻く保険制度、医療のしかた(患者さんと医師とのコミュニケーションを初めとする、サービスとしての医療のあり方)には本質的な変化はなかったように思います。患者さんがうける診断・治療といった医療は、ゆっくりではあるが医学の進歩を消化して、発達をし、患者さんはそのような発達から利益を受けていたと思えるのです。

 しかし、1999年ころからは、医学だけではなく、患者さんと医師との接し方をはじめ「医療」が急速に変化し始めました。医療事故の社会問題化、卒後臨床研修の必修化に伴う大学病院での医師減少、医療過誤訴訟の増加、医療を巡る事件の刑事事件化、平均在院日数の短縮、診療報酬(医療費)抑制、女性医師の増加、そして、最近では、救急患者の受け入れ先不足、医師の過労死、公立病院の閉鎖・縮小が起きています。

 最近10年の変化は、患者さんにとって望ましい10年だったのでしょうか。

私にはそうは思えないのです。

 このような事件はなぜおきているのだろう。どのような関係があるのだろうか。

 そんなことを思いながら、病院の現在とむきあいつつ、考えた雑感を書き記して行きたいと思います。

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朝日新聞の取材に応えて

近江八幡市立総合医療センターの事業に関し、報道機関から取材を受けることがしばしばあります。1月22日に朝日新聞に掲載されたコメントはそのような中の一つです。

記者には、このコメントとして取り上げられている部分だけではない、複数の要素がいかに関与しているのかを説明して来ました。多少は記者の方の理解の役にたったのでしょうか?

風前 病院PFI 民活で効率化のはずが大赤字 第一号で契約解除案
2008年1月22日【朝日新聞】

 民間の資金と知恵を社会資本の整備に役立てようと始まったPFIが、病院事業で苦境に立っている。滋賀県近江八幡市では21日、全国初めて設計から運営までPFI方式で実施した病院経営をめぐって、「契約解除」案が浮上。病院では初事業だった高知市でも、契約解除の言葉が飛び交う。導入から8年余り。国も事業の透明性が必要だとし、改善に乗り出す。
(日比野容子、中川壮、浜田陽太郎)

 「PFIという外国の呪文を前に、近江商人のそろばんを忘れた」
 経営の行き詰まりが明らかになった近江八幡市立総合医療センターについて検討委員会(長隆委員長)は21日、「契約の一部解除」も視野に入れた厳しい「提言」を市長に答申。PFIを導入した市の姿勢を批判した。
 同センターは、PFI方式により06年10月開業。大手ゼネコン大林組が出資した特別目的会社(SPC)が病院を建設、所有する。医療以外の給食や清掃などの業務を一括して、30年間の長期委託契約を結ぶことで効率化を進め、30年で計56億円のコスト削減が可能と試算。前市長時代の03年に契約された。
 問題は、足元の収支と資金繰りの悪化だ。医業収入の減少などで、実質的な初年度である07年度には、想定より10億円多い24億円の赤字を計上し、つなぎ資金8億円の一時借り入れを余儀なくされる。建て替え前の旧市民病院は30年間、黒字経営だった。
 提言は、PFI導入にあたって、事業計画そのものの制度が甘かったと指摘する。
 その象徴が、豪華な建物だ。吹き抜けの広々としたロビー。床はカーペット敷きで、壁は高級ホテルのような木目調。ベッド1床あたりの単価は約3千万円で、民間病院の2~3倍という。
 収入が落ち込む中、設備投資への支払いがかさんで手持ちの資金が枯渇。4~6年後には資金不足額が50億~70億円に膨らみ、近江八幡市は、北海道夕張市と同じように国からレッドカードを突きつけられる恐れがある……。提言が描く将来像は危機的だ。
 SPCへの不満もある。旧市民病院では各業務ごとを業者に直接委託し、要望も業者に直接伝えていたが、今はSPCを通して交渉する。病院側によると、まず要望内容が契約の範囲内かどうかの調整が必要で時間がかかるという。
 SPCの社長は検討委員会で、「業務内容に不満があれば、契約交渉することも可能」と述べた。だが委員の一人、京都大学医学部附属病院医療情報部の長瀬啓介准教授は「PFIだと契約は簡単には変更できない。臨機応変な対応が必要な病院経営にはなじみにくい」と話す。

高知でも不満噴出
 近江八幡より1年半早くPFI方式で開業した高知医療センターについても、不満の声が高まっている。同センターの06年度の赤字は22億円に迫り、経営計画より4億円以上多い。18日に開かれた高知県・高知市病院企業団議会議員協議会は、「契約解除も視野に入れる必要がある」と、県や市の議員からSPCへの厳しい批判が相次いだ。
 批判の矛先は、オリックスが構成団体のSPC。調達を担う材料費の医業収益に占める割合が、提案で示した数字を大きく上回っているためだ。
 「オリックスが契約をとるために、低めの数字を設定したならおかしな話だ」という声や、業務提案書の提出を求める声も上がった。
 県と市の議会も昨年12月、経営改善を求める決議を全会一致で可決した。

事業の透明化 国が勧告
 PFI事業は、バブル崩壊後の景気対策として橋本政権下で始まった。議員立法で推進法案が成立し、99年秋に施行。さらに「官から民へ」をスローガンにした小泉政権で導入件数が急増。内閣府によると、スポーツ施設や刑務所など、計画中を含めて約290件の事業が動いており、うち160余の事業でサービスの提供が始まっている。
 導入が進む背景には、国や自治体の財政難がある。PFI方式をとれば、公共サービスをより安く効率的に実現するというのが、売りだった。
 病院事業では開業ずみは3件。うち2件で契約見直しの動きが起きたことは、病院PFIの課題を浮き彫りにしている。
 一つは、公立病院の経営そのものの厳しさだ。医師不足や診療報酬の引き下げで、約千の自治体病院の収支は急速に悪化。総務省は昨年12月、公立病院の改革ガイドライン(指針)をつくり、各病院に「黒字達成」を求めた。
 国は自治体に対し、新たな財政健全化策を求めており、病院の赤字を自治体本体の赤字と連結した決算を対象にした「査定」を来年度から始める。自治体にとって、財政指標の改善は、今すぐ達成する必要がある。
 一方、PFI導入による財政的なメリットは30年など長期にわたる契約期間の終了後に判明する。そんな長期のメリットより、赤字団体への転落を免れるには、「目の前の赤字改善の方が先」という懐事情が、自治体の姿勢を左右する。
 二つ目の課題は、事業の発注元と市のSPCとの関係だ。
 清掃や給食など外部委託が可能な業務について、SPCが一括して受注すれば、それまでの業者別の契約に比べてコストが削減でき、経営が効率化できる、というのが病院PFIの理念だ。
 だが、近江八幡市では「業者との個別契約の方が、要望を直接伝えられて効率的」との声が上がった。高知でも、自ら提案した仕事の水準を満たせないSPCへの不満が出ている。公共事業アドバイザーの熊谷弘志さんは、「PFIでは、自治体が通常の記載で調達するより高い金利の民間資金を使う。その差額を上回るメリットがないと、税金の無駄遣いになる」と話す。
 総務省行政評価局が今月11日に発表した政策評価では、調査した146事業のうち、コスト削減の根拠を公表していたのはわずか1件。「事業の客観性・透明性が必要」と勧告した。内閣府は今夏にも、導入する際のモデルとして、契約書の手本や解説を示す予定だ。

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