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2008年12月

近江八幡SPCは不見識といわざるをえない。

近江八幡市の病院PFI契約が解除されたことを受けて、SPCの社長らが記者会見をして報道機関に対して、彼らの見解を述べています。この内容を見ると、首を傾げたくなる発言が多く見られます。報道されている範囲でのSPC側の発言について、私見を述べたいと思います。

「私たちは病院を直接ではなくサポート運営する立場。医業はわれわれの分野でない」
「当社に委託されている運営業務費用は、センター全体の16%にとどまる。」

 通常病院の支出の約50%は人件費であり、医療材料や医薬品などの外部購買品に対する支出が20%強を占めます。したがって、病院の支出の管理上残る支出(30%)をどう圧縮するかが重要となるのです。

 その残る部分の約半分をSPCが占めているということになりますから管理しなければならない支出のかなり大きな部分をPFI化することで、経費が固定化されたことになり、病院経営に重大な影響がある程度の数字です。
 このように、全体の支出に対して16%という数字のみを示すことで関与を低く示そうとするのは、病院経営について精通している人物の発言としては、何かの意図があるのか、あるいは病院経営について無知であるのかどちらかと考えざるをえません。

「建物の建設や維持管理、運営面は、市の要求に対し100%以上の成果を上げている」

 SPCの行う事業が適切であるかどうかを評価する基準は、最終的に市とSPCとの間で合意をすることが出来なかったと記憶しています。また、医療事務を請け負っていた会社の従業員が金銭を着服した事件が刑事事件化しています。
 このようななか、100%以上の成果を上げているというのは果たして何を言っているのか理解できません。根拠を尋ねたいものです。

「一床当たりの単価は二千五百万円で民間病院並み。災害拠点病院の機能も備えている」

 国立病院機構ですら、建築単価は1床当たり1500万円~2000万円程度としています。
 果たして、1床あたり2500万円という民間病院はどの病院でしょうか?それが、(~並みという表現で比較の対象となる)平均的な病院なのでしょうか?

「PFI方式の採用と経営難に因果関係はない」

 以上の発言から読み取れるように、病院のコアサービスである医療や病院事業全体の利益と、SPCの利益が分離しているためPFIを導入する時には相当に綿密に事業計画を立ててSPCのリスクと病院事業のリスクを同一化する必要があるのです。
 そうでなければ、このSPC社長の発言の用に、病院事業のリスクを放置し、営利企業としての目的である営利を追求することになるのは自然であり当然の帰結であると考えます。

 このような発言がされるSPCと契約を結んだことがPFI事業の失敗の一因であったという見方もできるでしょう。また、このようなSPCをコントロールできるだけの力量が地方自治体の側にも必要であるという見方もできるでしょう。

以下新聞報道より

PFI解約に調印 近江八幡市の医療センター

中日新聞【滋賀】
2008年12月26日

 PFI(民間資金活用による社会資本整備)方式で運営する近江八幡市立総合医療センターについて、市とセンター、運営主体の特別目的会社(SPC)「PFI近江八幡」は二十五日、事業契約を解約する合意書に調印した。SPCが担当している医業以外の運営は、来年四月から市直営となる。計画段階を含めて全国に十二あるPFI病院で契約解除は初めて。

 市役所で調印式があり、冨士谷英正市長、槙系(まきけい)院長、SPCの井谷守社長が出席した。

 冨士谷市長は「一つの山は越えられた。病院を未来永劫(えいごう)残すレールに乗れたと思う」と話した。井谷社長は「(契約通り)三十年間続ける思いだったが、市の財政事情を考えやむを得ず受け入れた。PFIシステムに問題はない」と強調した。

 調印により、事業計画は二〇〇九年三月末で全部解約される。市はSPCに違約金二十億円、建物の購入費百十八億円などを支払う。

 (松瀬晴行)
◆「方式と経営難因果関係ない」 SPC側が主張

 「契約解除の主な原因は、収支の現状と近江八幡市の見通しが著しく乖離(かいり)したことにある」

 調印の後、会見した特別目的会社(SPC)「PFI近江八幡」の井谷守社長と平山賢一取締役は、市立総合医療センターが経営難に陥った原因をこう説明し、「今後の病院PFI事業の推進に支障がないよう願いたい」と何度も訴えた。

 市のずさんな当初計画に加え、元本や金利の支払い計画の甘さも露呈した。

 市は毎年、当面必要がない大規模修繕費一億五千万円をSPCに支払っている。井谷社長は「民間が受け取っても税務上、利益となり課税される。だから『市で積み立てておいた方が得策』と提案したが、市側は均等払いにこだわり受け入れなかった」と明かした。

 運営面では「当社に委託されている運営業務費用は、センター全体の16%にとどまる。PFI方式の採用と経営難に因果関係はない」と強調。市長の諮問機関「あり方検討委員会」から「ホテル並みの超豪華建築」と批判されたことに対しては「一床当たりの単価は二千五百万円で民間病院並み。災害拠点病院の機能も備えている」と反論した。

 報道各社から「官と民の協働が感じ取れなかったが」「SPC側に責任はないのか」と追及されると、井谷社長は「私たちは病院を直接ではなくサポート運営する立場。医業はわれわれの分野でない」と主張。「建物の建設や維持管理、運営面は、市の要求に対し100%以上の成果を上げている」と繰り返した。 

 (松瀬晴行)

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近江八幡PFI解約調印 終りではなく、はじまり

 本日付の京都新聞Online版によると、近江八幡市立総合医療センターのPFI契約が、本日合意解除されたとのことです。

 PFIによる資金調達・運営方法を含めた、病院の経営に関する知識と経験の不足から起きた近江八幡市民総合医療センターの経営難は、その足かせの一つを取り除くことができたことになります。

 PFI契約が解除されたことは経営難が終ったのではありません。経営難からの改善の入り口に立つことが出来たに過ぎないのです。

http://www.kyoto-np.co.jp/article.php?mid=P2008122500072&genre=C4&area=S00

PFI解約合意書に調印
近江八幡市と運営側 病院、4月から直営に

Kyoto Shimbun 2008年12月25日(木)

 PFI(民間資金活用による社会資本整備)方式で運営している近江八幡市立総合医療センターをめぐり、同市と同センターを運営する特別目的会社(SPC)「PFI近江八幡」は25日、PFI解約合意書に調印した。

 合意書によると、解約日は2009年3月末。市は同センター整備費の残額約118億9100万円をSPCに支払って施設を一括で買い取り、4月から直営化する。解約に伴い、市はSPCに逸失利益補償などの解決金20億円と、撤退する受託業者への補償約2900万円を支払う。

 調印式は同市役所で行い、冨士谷英正市長と槙系院長、井谷守SPC社長らが出席した。
 調印後の会見で、冨士谷市長は「ひとつの山を越えられた。かけがえない同センターを残すため、経営改善へ今まで以上に努力する」、井谷社長は「30年間続けるつもりだったので残念だが、市の事情からやむを得ないと考えた。PFIがおかしかったとは思わない」と述べた。

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経営計画の失敗を回復することは困難

 近江八幡市立総合医療センターのPFI事業が解除されたのは、計画段階での失敗が原因でした。近江八幡市がこのような誤りを早期に修正しようとPFI事業を解消するのは当然のことです。

 ただ、PFI事業を解消したといっても、計画の失敗を回復することは困難でしょう。なぜなら、確かに金利部分はあるていど公債に借り替えることで軽減されますが、それでもなお現実に建築に要した費用と運営に要する費用は軽減されることはないからです。病院の収益は、健康保険制度により実質的に決められてしまっています。建築費や設備費・管理費が高コストであれば、結局医療行為に使われる消耗品や人件費を抑制するという方向に進むことになるのです。つまり、病院を建築したことで、近江八幡市の市民は将来にわたり大きな負担を負い、そこで働く人の生活を貧しくし、医療の質に制約を受けることになったのです。

 近江八幡市立総合医療センター事業では市と市民は大きな負担をした。では、その負担により利益を得たのは誰なのだろうか。わが国での病院PFI事業を見るとき、利益が現実にだれに発生しているのかを見極める必要があるのではないでしょうか。

PFI解除 甘い見通し 経営悪化
近江八幡市立医療センター 収益最高で計画の84%

 近江八幡市が17日発表した市立総合医療センターのPFI契約解除。その背景には、過大な収益を織り込んだ経営計画の甘さがあった。

 冨士谷英正市長は記者会見で「旧市民病院時代ですら、年間の病床稼働率が最高84%だったのに対し、センターの当初計画では95%を見込むなど、過大な収益計画だった」と述べ、前市長時代の当初計画の問題を指摘し、契約解除に至った最大の原因だとした。

 センター幹部は「開院翌年の2007年度の医業収益84億円は、旧市民病院時代も含めて最高。現場の医師や看護師は最大限の努力をしている」と主張する。しかし、計画の年間100億円には遠く及ばないのが実情だった。

 PFI方式は、公共施設の建設や運営に民間資本を活用するため、起債で資金を調達する場合に比べ、利子が高くなる。それでも市は、民間に運営を委ねれば大幅な費用削減ができると判断し、導入を決めた。

 だが開院後は、収益が想定を下回り、利子などが経営を苦しめた。そこで市は今年7月から、契約解除に向けた交渉を、センターを運営する特別目的会社(SPC)との間で進めた。

 市は「病院債を発行して直営化すれば、最初の5年間は元本据え置き。その間にセンターの収支を改善できることが、契約解除の一番の効果」と説明する。

 一方、会見に同席したセンターの槙系院長は「資金的な余裕があれば、PFIの精神を追求できたかも知れないが、私たちにその時間はなかった」と述べ、経営難の原因とPFI方式自体の問題とを「切り離して考えるべき」とした。

 市は、直営化から6年後に経営は黒字になるとの見通しを示しているが、黒字だった旧市民病院時代のノウハウがセンターでも通用するという保証はなく、これから長く、険しい道のりが続く。
(2008年12月18日  読売新聞)

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読売新聞の取材に応えて

12月18日付け読売新聞で、近江八幡市のPFI契約解除について報道されていますが、前日読売新聞の記者から私がうけた電話取材に基づいたコメントが記されています。PFIについては、この手法から利益をえる企業体などが利点を広報するなどしていますが、課題を具体的に指摘する報道はまだ少ないのが残念です。

病院の民間活用破たん、近江八幡市が契約を解除へ

 滋賀県近江八幡市は17日、公共施設の運営などに民間資本を活用するPFI方式を導入している市立総合医療センターについて、経営悪化に陥ったため、ゼネコン大手・大林組が100%出資するセンター運営の特別目的会社(SPC)と、解決金20億円を支払って契約を解除することで合意したと発表した。PFI方式による病院事業の破綻(はたん)は全国初めて。公立病院の経営が厳しさを増す中、コスト削減策としてPFI方式に注目する自治体も少なくなく、影響を与えそうだ。

 市は、旧市民病院の老朽化に伴い、SPCと30年間で建設費や運営費など計682億円を支払う契約を結び、2006年10月にセンターを開院した。

 当初、PFI方式の導入で、市直営より30年間で68億円の経費削減になるとしていたが、医療制度改革による診療報酬の伸び悩みなどで、年間100億円と見込んでいた医業収益が07年度は84億円にとどまった。同年度は27億円の赤字を計上し、08年度も9億円の赤字が見込まれている。

 試算では、直営に戻した場合、PFI方式を継続するより約113億円節約できるという。

 解決金の内訳は、SPCへの逸失利益補償8億9500万円、センターの運営に携わっている受託企業の解約補償2億2500万円など。また、118億円の病院事業債を起債し、SPCが所有する病院施設を一括購入する。18日の市議会に関連議案を提案し、可決されれば、センターは来年度から市直営に移行する。

 冨士谷英正市長は記者会見し、2年半での契約解除について、「最大の原因は収支の見通しの甘さだった。今後、しっかりした病院経営をしたい」と話した。

 長瀬啓介・金沢大教授(医療経営学)の話「短期間で変更される医療制度などに即応できないと病院経営は安定しない。先進国の英国でも、多くの失敗を重ねて制度を作り上げており、安易にPFIを導入しようとしている他の自治体への警鐘となるだろう」

 PFI方式 民間資本を活用した社会資本(基盤)の整備を意味する「プライベート・ファイナンス・イニシアチブ」の略。民間手法を導入して無駄を省き、サービスも向上させるのが狙い。病院事業では9月末現在、高知市の高知医療センター、大阪府八尾市立病院など計12か所で実施・計画中。

(2008年12月18日  読売新聞)

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英国の病院PFI事業の現状をふまえて

英国のNHSでは、病院の資本更新(建物の立替)などに、PFIを応用してきました。このことを、わが国でも病院事業にPFIを導入を検討する際参考にする人がいます。

実際、わが国でPFIの導入が進められたのは、英国でPPP/PFIが導入されたことを受けてでした。

では、現在、英国で病院PFIはどのように評価されているのでしょうか?

英国では、病院PFIは「完全な失敗である」とまで評価はされていませんが、うまくいっていないと考えられています。

詳しくは、高知県で行った講演(公立病院改革セミナー(高知県))のスライドをご覧ください。

http://www.iryo-japan.net/kouen/

このような、失敗は、BMJ(British Medical Journal)など有名な英国の医学雑誌でも繰り返し取り上げられており、病院事業の関係者が真剣にPFIの導入を検討していれば、計画の段階でPFIの困難さに気付くことが出来たでしょう。

訂正:スライド43ページ下から3行目 誤 晒名 ⇒ 正 使命

ところで、高知医療センターPFI事業計画に深く関わった高知県・高知市病院企業団 高知医療センター 事務局長 として長瀬順一という方がいらっしゃるようですが、私とは(苗字は同じですが)全く面識も関係もない方です。時々尋ねられますので、ここでおことわりさせていただきます。

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近江八幡市 病院PFI契約解除へ

 京都新聞(WEB版),朝日新聞、日本経済新聞など各誌で、近江八幡市が病院PFIの契約を解除することになったと報じています。なお、これらの報道では、収益が確保できなかった原因として、病床稼働率が予想を下回ったことを指摘しています。

 では、なぜ病床稼働率が予想を下回ったのでしょうか?記事ではその答えについて言及されていません。私は病床稼動予測が過大であったためだったと理解しています。

 病床稼動が予測を下回る理由として、一般的には(a)設備不足・人員不足(医師不足)などの場合と、(b)需要予測の誤りの場合があります。近江八幡市の場合は、(b)需要予測を過大に見積もったことが原因であると私は考えています。以下で、もう少し詳しく説明しましょう。

 近年、病院の収益(および利益率)を向上するために平均在院日数を短縮する努力が続けられてきました。平均在院日数を短縮すると、同じベッドを埋めるにも多くの入院需要が必要となります。空のベッドからは、収益は生まれません。(たとえば100床のベッドを埋めるために、平均在院日数15日なら月200人の入院需要があればよいが、平均在院日数が7.5日になれば月400人の入院需要が必要となります。)つまり、平均在院日数の短縮を行うためには入院需要の確保が前提として必要となるのです。

 都心部の急性期病院で極短い平均在院日数を実現している病院では、それだけの独自の入院需要を自院の外来を大規模化して確保しているか、あるいは他の病院と協力して高度な医療技術を提供する部分のみをその病院で担当する分業を行っているのです。

入院需要を確保するための作戦は2つしかありません。
(1)病院の受療圏(患者が来院するエリア)を拡大して、受療圏内の人口を増加させる作戦。たとえば、入院患者がくるエリアを半径5kmから半径10kmに拡大するという作戦が一つ目です。人口当たりの入院需要発生確率は同じだから、入院を確保するためには広い範囲から患者さんを集めるという考え方です。
(2)一定地域での、入院占有率を高める作戦。たとえば、近江八幡市で入院する患者が発生した場合、他の医療機関にかかる率を抑え、入院患者を(極端に言えば)根こそぎ近江八幡市民総合医療センターで入院させるようにするという作戦が2つ目です。

(1)の作戦については、近江八幡の近隣には、すでにいくつもの民間病院があり、医療機能も類似しています。受療圏を拡大するのは容易ではないと考えられます。
(2)については、他の地域医療機関の患者を奪うことになり、公立病院の設置目的に合致するとはいえないでしょう。

以上の検討により、近江八幡市民総合医療センターは入院需要を増加させることに困難がある状況にあると考えられます。

 実際に、近江八幡市民総合医療センターでは既設の病床数の見直しを十分行うことなく病床数を設定して、施設・設備・そして人員などの事業規模を設定しました。ここから既に近江八幡PFIの破綻は始まっていたのです。

Kyoto Shimbun 2008年12月15日(月)

病院PFI解除へ解決金20億円
    近江八幡市、運営側と合意へ

 PFI(民間資金活用による社会資本整備)方式で運営し経営が悪化している滋賀県近江八幡市立総合医療セ

ンターをめぐり、PFI契約解除へ、同市が同センターを運営する特別目的会社(SPC)に解決金約20億円を支払う条件でほぼ合意し、近く調印することが15日、分かった。PFI契約の解除は、経営破たんした「名古屋港イタリア村」(名古屋市)を除き全国で初めて。

 市は病院事業債を起債して、2009年3月までに建設費残額をSPCに支払って施設を一括で買い取り、4月から同センターを直営に戻す方針。財政調整基金などの約16億円と、すでにSPCに支払った修理費積み立て金約4億円と合わせて解決金とする。

(以下略)

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病院にPFI事業は不適なのか(下)

病院事業にPFIを適用する際の問題は他に2つあります。

(2)病院事業の収益は国の政策で決定される医療保険制度に全面的に影響されるが、国の医療政策の変化はPFI事業の存続期間よりもはるかに短期間で変化する。

 建設を伴うPFI事業は支出を決定しますが、その存続期間としては、30年程度あるいはそれ以上が設定されます。

 他方、病院事業の収益はほぼすべてを医療保険制度に依存していますが、医療保険制度は数年単位で大きく変化します。これは、医療保険制度を経済的インセンティブとして最大限に活用し、医療サービスを制御しようとする厚生行政の影響で生じている現象です。

 このように変化が激しい医療保険制度の下では、収益の予測が困難です。ところが、近江八幡市および高知医療センターで行われたPFI契約では、長期に同じ事業を継続することを前提として、事業支出を固定化し金銭債務化してしまいました。つまりこれらのPFIのスキームでは、支出が収益と解離することが当初から予測されたのです。

 今後高齢化社会の進行に伴い国民医療費の増加が必至で、これを抑制しようとすれば病院の収益は抑制することになります。

 ここまで考えれば、事業支出を固定化するような契約を結ぶのであれば、長期的な収益は相当謙抑的に見積った上で、事業支出を計画しなければならないのは当たり前だと気付くことでしょう。

 さて、このような謙抑的な支出予算で、はたしてPFI事業が成立するのでしょうか?そもそもPFI事業として成立しなかったのかもしれません。少なくとも、相当の懸念を持ちながら計画をすべきだったのです。

(3)地方自治体には、病院事業を経営する管理能力に乏しい。

 そもそも、地方自治体立病院の大部分は、経営が赤字であることが知られています。
この原因は、施設・設備・人員が需要に対して過大なためで、総務省が公立病院改革ガイドラインで病院経営に対して実質的に求めている本質は、施設・設備・人員の需要に対する適正化です。

 つまり、経営の基本である需要の予測とそれに対応する投資(施設・設備・人員)を適切に行う能力が、多くの地方自治体では欠如しているといわざるを得ないのが現状なのです。

 このような経営能力で、病院経営という実務のみならず、契約関係という法務上の管理も行う必要があるPFIを適切に調達できる能力が地方自治体に備わっているとは到底期待できません。実際、病院事業でPFIを導入した地方自治体などの大部分ではコンサルテリング会社の協力を得ています。コンサルティング会社の協力を得るということは、内部に適切に事業を管理できる人材に乏しいことを意味しています。

病院にPFI事業は適するのか?

私の答えは、次の通りです。

「正しい方法で、能力のある自治体が、うまくやれば、うまく行くかもしれない。」

「しかし、今の日本の地方自治体の病院経営能力を考えると、PFI事業化してうまく行くと思うのは、相当楽天的な観測だと言わざるを得ない。」

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医師として、そして患者の家族として

先日、父が亡くなりました。

私は、医学部を卒業以来、先輩や同級生の医師たちが真剣に患者さんの診断と治療に力を傾けるのを見てきました。そして、それが普通であると思ってきました。

しかし、患者の家族として父が受けてきた医療をみたときに、残念ながらすべての医師が、私の先輩や同級生たちと同じように真剣に患者さんの診療に向き合っているのではないということを知らされました。

時に、常軌を逸するほど、医師や医療機関を批判する方がいらっしゃいますが、そのような対応をするかたが生じる現状があることを知るのは、私にとって悲しい経験でした。

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病院にPFI事業は不適切なのか(中)

報道機関からの取材で、病院事業でのPFI活用の是非について意見をしばしば求められる。

答えとしては、現在の日本の医療制度を前提とし、地方自治体などの事業管理能力の水準を考慮すると、病院事業にPFIを活用するのは事業破綻の可能性が高く危険であると考える。

以下理由を述べて行きたい。

(1)医療法上の制約が、PFIのリスク分担スキームの適正な実現を困難としている。

そもそもPFIは公的事業(経営)改善手法と資金調達手法を、公の側にとって事業リスクを低減するように組み合わせたものとして企図したものだった。

つまり、公的事業(経営)の改善(および効率化)を民間事業者を導入することにより実現しようとする際に、民間事業者は(営利企業として当然)公の犠牲の下に自己の利益を最大化しようとする行動をとろうとする。このような行動を抑制し、公と民の便益およびリスクをバランスさせるために、事業失敗により生じる財務リスクを資金調達と事業責任を民間事業者にも分担させるのがPFIが成立する前提である。各種の契約手法は、このバランスを実現するための法的技術に過ぎない。

ところが、病院事業にPFIを導入しようとすると、わが国の法制度上、民間事業者に委託できるのは病院の施設建築および管理をはじめとする医療サービスの周辺サービスに過ぎず、収益を決定するコアサービスである医療サービス自体は地方自治体など公が設置者の責任として行う必要がある。

水泳プールや体育館、博物館の運営にPFIが導入された場合は、コアサービスに民間事業者を関与させることにより、事業全体の成功如何を民間事業者の収益に反映させるなどの方法を取ることが容易であり、事業全体のリスクを公と民で分担することが可能となる。しかし、医療は上で述べたように、コアサービス部分は公が担当することとなり、民間事業者はコアサービスの成否から法的に隔離されている。

もともと、この隔離は営利を目的とする民間事業者が医療に参入し、患者の犠牲の下に自らの利益を確保しようとすることを予防するために、設けられているものであった。しかし、この状況ではPFIを病院事業で応用すると、病院事業というコアサービスを破綻させても民間事業者は自己の利益を確保しうる構造が出来上がってしまうのである。

このように、医療法上の制約が、PFIのリスク分担スキームの適正な実現を困難としている。

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共同通信の取材に応えて

 近江八幡市で病院PFI契約の解除に向けた動きが明確になるに従い、報道機関から取材が増えています。多くの場合、問いは「PFIは病院事業に不適切なのか」という趣旨です。私の答えは、一般受けするものではないかもしれません。しかし、記者の取材に問題の所在を出来るだけ正確に伝えたいと考えています。
 以下の共同新聞のコメントと共に報じられた近江八幡市関係者のコメントに、BOT方式を取ることによる固定資産税負担が発生する問題が挙げられています。しかし、固定資産税の問題に限らず、どのようなコストが発生するのか、そのコストと収益との関係を当たり前に分析する能力が経営する人に必要であることは言うまでもありません。

病院PFIの事業予測困難
2008.12.01 共同通信 

長瀬啓介(ながせ・けいすけ)金沢大教授(医療経営学)の話 PFIは資金調達の一つの手法だが、必ずしも成功するわけではない。

病院経営は、医療制度の変化があまりに大きいため長期間の事業予測が難しい。しかし、自治体側にその事業を行うだけの十分なスキル(手腕)がないのが現状だ。

病院のPFIで先行している英国でも同じような結果になっている。経験を積み重ねて経営の予測能力を高めることが必要だ。

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