新型インフルエンザ対策を巡る奇妙なメディアの反応
石川県ではまだ新型インフルエンザ患者が報告されていませんが、勤務先である金沢大学附属病院など医療機関ではこの感染症に向けた対策を検討をしています。
他方、メディアでもしばらく新型インフルエンザを巡る報道が続いていましたが、この数日は沈静化しているようです。
私は、新型インフルエンザについての報道を見るたびに、違和感を感じていました。たとえば、他国の動向といえば、WHOと米国の動きが主で、EU諸国での対応についてはほとんど目が向けられていないことは気にかかります。このため、結果的に日本の国内では不思議な主張が大手を振って通っているように見えます。
最近、メディアにしばしば厚生労働省の東京検疫所で検疫業務に携わる木村もりよ(筆名:木村盛世)医師(※)の発言が取り上げられています。そして、メディアが政府のインフルエンザ対策に対する論評を構成していく上で、影響を与えています。木村医師の発言にはある部分正しいところもありますが、おかしなところもいくつかあります。その、おかしなところを指摘する人はあまりいません。
Diamond onlineでのインタビューには、次のような部分があります。
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「日本が感染症対策の途上国である」
厚労省の新型インフルエンザ対策の欠陥を、木村もりよ医師に聞く
http://diamond.jp/series/tsujihiro/10071/?page=2
―学校閉鎖も意味がないのか。
ない。閉鎖する狙いは、自宅に閉じこもって他者と接触するなということだろう。そんなことが可能だろうか。戒厳令を敷いて、外出した人は逮捕すると通達しても、人は閉じこもってはいられない。集会を禁止し、人の動きを止めようとしても無駄であり、感染防止に役立たないことは、スペイン風邪を含め歴史が証明した常識だ。学校を閉鎖し、デパートの入場を制限し、出張を取りやめさせ、といった行為は無駄であるばかりでなく、国力の低下を招く有害な施策だ。
(略)
―日本政府は、なぜ世界の常識に反した的外れの対策に固執し続けるのか。
日本が感染症対策において、発展途上国であるからだ。感染症対策の研究は、公衆衛生学において行われる。日本の大学の公衆衛生学部は、医学部の非主流のさらに外側にある。海外は違う。公衆衛生学は伝統的かつ先端の学問だ。私が学んだジョンポプキンス大学公衆衛生大学院は、ホワイトハウスと深いかかわりがあり、研究成果は政策に反映される。
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強く言い切る言葉とその職業から、この発言は信頼できるような印象をあたえます。しかし、次のような事実を知る人には、この発言はどのように感じられるでしょうか。
米国CDCは5月5日まで新型インフルエンザ感染者が出た場合は学校閉鎖を推奨
していました。そして、5月5日に米国国内で既に国内感染が広範に確立していると
いう判断に至り、もはや学校閉鎖はその必要性があるとはいえないと判断を変更
しています。英国では5月5日の時点で5校が学校閉鎖をしています。(それぞれの記事の出所などを、末尾に記します。)
現在、新型インフルエンザのワクチンはまだ製造されていません。したがって、拡大速度を抑制するように努力しつつ、ワクチンの製造を待つというのも、新型インフルエンザに対する対策としては考えうるものです。そのようななかで、学校閉鎖や学級閉鎖が感染拡大速度を抑制する方法として無効とはいえないですし、封じ込めが可能であれば感染速度を抑制するのに有効であるといえます。だからこそ、米国や英国で学校閉鎖や学級閉鎖が行われたのです。
木村もりよ医師の言葉に「私が学んだジョンポプキンス大学公衆衛生大学院は、ホワイトハウスと深いかかわりがあり、研究成果は政策に反映される。」いう部分があります。では、木村もりよ医師が意味が無いと言った学校閉鎖をなぜアメリカ合衆国は推奨したのでしょうか。
検疫や学校閉鎖・学級閉鎖は、新興感染症管理の道具(方法)にしか過ぎません。
その方法の個別に取り上げて、断定的に適不適を主張するのはおかしなことです。
それをおかしいと感じるだけの判断力をもった人が、メディアに増えて欲しいものと思います。よく調べて、冷静に事実を見つめて、考えてから発言したいものです。
インフルエンザを巡る、今回のメディアの多様な報道や、様々な人の発言を聞きながら、PFIを巡る様々なメディアの反応を思い出しました。
参考
[1]
Fifth UK school shuts over swine flu
Published Date: 05 May 2009
Five UK schools are to remain closed as nine more cases of swine flu were confirmed, bringing the total number to 27.
http://www.halifaxcourier.co.uk/swineflu/Fifth-UK-school-shuts-over.5233635.jp
[2]
Swine Flu School Closures Not Recommended by U.S. (Update3)
By Tom Randall and Oliver Staley
May 5 (Bloomberg) -- Swine flu shouldn’t close schools unless so many students or teachers get sick that the institutions can’t function, the U.S. Centers for Disease Control and Prevention said, reversing earlier advice.
The agency today changed its recommendation that schools consider closing if they suspect swine flu. That advice led to the closure today of at least 726 schools in 24 states and the District of Columbia, keeping about 468,000 students out of class, according to the U.S. Education Department.
The Atlanta-based CDC now says sick students should stay home and shuttered schools should reopen. The original recommendation was made before the virus had spread widely in the U.S. with symptoms usually no more severe than seasonal flu, said Richard Besser, acting head of the CDC. Because the illness is so widespread, some containment efforts cost more than they’re worth, he said.
“Anyone who closed their school based on our recommendation, we no longer feel that closure is warranted,” Besser told reporters today on a conference call from Atlanta. “The big focus now is on identifying children who are ill” and asking parents to keep them home for at least seven days, Besser said.
http://www.bloomberg.com/apps/news?pid=20601110&sid=am8NvstIkjMU
[3]
Swine flu school back in business after week's closure
Published Date: 21 May 2009
By Lyndsay Moss
A SCOTTISH primary school that closed after one of its pupils contracted swine flu reopened yesterday.
After a week away, children returned to classes at Ravenscraig Primary in Greenock, where a five-year-old pupil had tested positive for the H1N1 virus.
Tamiflu antiviral drugs were given to 23 pupils in the boy's class and to 17 members of an after-school club he attended.
http://news.scotsman.com/health/Swine-flu-school-back-in.5288364.jp
木村 もりよ医師:
東京検疫所東京空港検疫所支所 検疫衛生・食品監視課検疫医療専門職
なお、木村もりよ医師は、大学で私の1年先輩にあたり、個人的にも存じています。闇雲に非難する意図はありません。
(5月29日追記)
メディアで取り上げられた事件について記した直後に、ご意見を記したメールを頂くことがあります。お教えいただくこともあるのですが、残念なメールも散見します。たとえば、私の書いた文章を正確に読まずに、自分自身の思い込みに基づく解釈をした上でメールを私宛におくる方がいます。残念におもいます。
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