医療政策

若手外科医数は増えるとは期待できない。

日経メディカル2009年4月号59~61pageに特集「外科崩壊」という記事が掲載されていました。(購読していない雑誌なので、最近知ったのですが)この中では、「進む若手医師の外科離れ」という章がおかれ、外科医不足の原因として、勤務が厳しいことなどをあげています。しかし的外れではないかと感じざるを得ません。

(若手外科医不足は、女性医師が外科を選ばないため)

この記事の表では、29歳以下の外科医は1996年には3229人であったのに、2004年には2184人であることを赤字で示して危機的状況であると訴えます。しかしこれは女性医師が増えたことによる当然の結果にしかすぎません。

女性医師が外科をほとんど選ばないことと、女性医師がいまや新卒医師全体の3割程度を占めていることを考えれば、若手の外科医の数が従来の7割程度になるのは、当然、予想できることです。

(若手外科医の増加は期待できない)

男性医師が、外科を選択する比率は、顕著には変わっていないというのが、2004年までの医師歯科医師薬剤師調査個票データを用いた分析の結果です。

以上を踏まえ今後を予想すると、「男性医師の数が増加する」か、「女性医師が外科を選択するようになり、かつ、女性医師が男性医師と同様に働くだけの労働環境が整備される」かしない限り、若手外科医は増えることは期待しがたいと考えられます。

(外科医療を改善するには)

外科医数の増加が期待できないとするならば、外科医がより外科手術に専念できる環境を整備しなければ、外科医療を維持することは出来ません。

たとえば次のような対策が考えられます。

1)化学療法など外科医以外でも出来る医療行為を、内科医など他の診療科にゆだねる。

2)麻酔医を増加し、麻酔医の増加で補えない場合には、麻酔に特化した看護師を教育訓練し、配置することで、一日一外科医あたりの手術件数を増加させる。

3)外科医の給与を、疾病・手技毎にさだめる平均在院日数によりスライドさせるなどの、インセンティブを与え、一医師当たりの手術件数に対する関心を高める。

思い返せば、これらの対策は、いずれも米国の病院で取られている方策でした。

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文科省が本日医学部定員増を発表しました。

偶然、昨日早朝に、新卒医師で女性の占める比率の変化に基づいて、医師の労働力を維持するためには医学部の定員増を15%程度以上増加する必要があると記しました。

本日、朝、文部科学省は来年医学部の入学定員を増加させ、2007年に比べて約16%増とすることを発表しました。文部科学省は5年後に再検討するとのことです。

この増員規模は、既に記したとおり、新卒医師で女性の占める比率の変化に対応したもので、妥当な規模であるといえます。

注目すべきは、「文科省は5年後に再検討し、必要があれば上積みを図る構え」と報道sれている点です。来年入学する医学生は、5年後まだ医学部の学生であり、医師にはなっていません。したがって、医師数不足解消には全く影響を及ぼしませんので、再検討の余地は無いはずです。では、何をもって上積を図るかどうかを判断するのでしょうか。

医学部新入生に占める女子学生の比率は、年々変化しています。これが5年後どのようになっているかを再度検討することで、医師労働力の調整を図る必要があります。たとえば、予想をこえて医学部の女子学生の比率が現在よりさらに高い率となれば、医学部の定員は増加させることを検討しなければなりません。このような点で、この文部科学省の談話・方針は適切といえます。

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原因を見ず対症療法を求める誤り(水野氏の医学部定員に関する記事について)

 社会保険旬報2009.3.21号に、水野肇氏「消費税を上げる前に」という寄稿をしています。この冒頭で、「医師不足の根本的問題」という章をもうけて、医学部定員の増加を「実際の戦力となるのは8年後である。こんな悠長なことをしていて間に合うはずがない。」と批判しています。

 別な部分では、「医師不足対策は基本的な考え方が確立していないのも問題である。最も重要なのは、不足している医師は医療のどの分野を担当している医師で、これらの医師の養成はどのようにおこなわれ、不足を解消するためにはどういうことをおこなえばよいのか対策が何も立っていないことである。」ともしるしています。そのうえで「女性医師の増加が医師不足にどのようにからんでいるのかも、このさい考えてみるべきである。」と書いていました。

 「女性医師の増加」という「基本的問題」として、不足している医師の担当している分野と養成にかかわり、医学部の定員増が不足している医師数問題を時間はかかるが根本的原因に対する対策となっていることは、私は昨日の記事で紹介した通りです。

 しかし、水野氏はこのようなことを理解しないまま医学部定員増を批判しているのです。これでは、疾病を診断せず、疾病を基本的病態から治療する治療方法を、対症療法として短期的に有効ではないと批判しているようにみえます。

 近年、医師不足が顕在化するには、長期的な医師のデモグラフィックな変化によって、病院で勤務する医師の労働力が相対的に減少している背景がありました。この背景の上に、新臨床研修制度が導入されたため、研修医が都市部の臨床研修指定病院や大学病院に集中し、医師というものは研修した地域や領域で活躍することになる場合がおおいため、地方にする医師数が結果的に減少しました。このため、地方では基幹病院や生命に直結する診療を行っている大学病院に医師を集約せざるを得なくなり、そして病院で勤務する医師数が顕著に不足するに至ったのです。

 したがって、短期的な対策としては、卒後臨床研修制度の見直しは不可欠ですし、そして長期的な対策としては医学部の定員増(あるいは、診療科毎の医師定員設定、医学部入学定員の性別設定など)が合理的な対策となります。
 もちろん医学部の定員増の規模は適正な規模としなければならないことは、既に述べたとおりで言うまでもありません。

2009.09.14タイトルがミスリーディングなので、修正しました。

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医師「不足」と女性医師の増加の関係

 近年医師不足が問題となっています。特に、地域の第一線で患者さんの診療に携わる病院での医師不足が話題になっています。昨年結果を公表した研究で、2004年までに実施された医師歯科医師薬剤師調査のデータ用いて医師数の変化の実態を示しました。先週、ある雑誌の座談会に招かれ、その席上で分析結果の一部をお話したのですが、ご出席の方はご存じなかったようで、驚いていらっしゃいました。

 国立国会図書館 ISSUE BRIEF 産科医療の問題点NUMBER575(2007. 3.22.)で引用された私の論文の中で、既に女性医師が30歳~40歳で一時的に診療から離れることによる労働力の減少を指摘しています。しかし、女性医師が増加することは、このような変化以上に大きな医師労働力への影響があることがわかりました。このことは、女性医師の比率は、女子医学生の比率をそのまま反映した、医師の人口構造の問題ですから、医師労働力の不足を改善するのは小手先の政策では対応が困難な課題であることをしめします。

 医師の偏在という言葉で、医師の総労働力は十分であるという主張が、有識者という人々から示されてきましたが、実際には医師の人口構造の変化に伴う実質的な労働力の変化をともなっていたのであり、総労働力についての定量的な検討がされてこなかったことに、強い疑問を感じます。「偏在」という主張を強調したのは不適切であったと考えます。

産婦人科の場合

 診療科で見ると産婦人科で医師の不足が問題となっていますので、これを例にとりましょう。大学病院以外の病院で勤務する産婦人科医の数はどのような推移をしているのでしょうか。

  研究報告書(厚生労働科学研究費補助金「医師・歯科医師数等の将来予測に関する研究」平成19年度総合研究報告書)の23ページ目(PDFファイル25ページ目)以下に産婦人科医の年度別・年齢別・性別の人数を密度図として示しましたので見てください。

 この図をみると、近年産婦人科では、40歳台以下の男性医師が急激に減少し、代わって女性医師増加していることがわかります。そして男女計で見たときに、産婦人科医はそれほど大きく減少してはいないことがわかります。
 2006年、2008年のデータは、分析することができませんでしたが、2004年までのデータで言えることは、産婦人科医の性別構成をみたとき、急激に女性の比率が上昇しているということです。

 主として働いている場所は医師・歯科医師・薬剤師調査でわかります。しかし、非常勤か常勤かの区別はわかりません。このため、働いている人が、どの程度の時間働いているのかはわかりません。しかし、別な調査・分析で、女性医師は働き場所として病院よりも診療所を選ぶ傾向があることがわかりました。また、同じ非常勤医でも、男性と女性では勤務時間に差異があり、女性の非常勤医の方が勤務時間が短いようです。

 これらの結果を総合すると、病院で勤務する産婦人科医の「不足」と呼ばれる現象は、医学部に入学する学生に女性が占める割合が増加したことにより、産婦人科医で女性が占める割合が上昇したことに関連し、おそらくは女性産婦人科医の働き方が男性産婦人科医とは異なることと関係があると推測されます。

 病院で働く産婦人科医は、統計上増加しています。しかし、女性医師が増加して働き方が変わったために、時間外の診療が手薄となったり、また非常勤医が増加し実労働時間が短縮していることが示唆されます。このため、医師の労働力が不足するに至っているものと推察されます。

外科の場合

 産婦人科に引き続いて外科の医師数の図を報告書に乗せています。
この図をみると、外科では病院に勤務する若手の男性医師が減少する一方、女性医師ほとんど増えていないことがわかります。

 この結果、全体として若い外科医が減少しているということがわかります。数年たつと、外科で医師の不足は顕著になり、大きな社会問題になるのではないかとの推測がされる結果となりました。

勤務場所、診療科と性別

 このように、病院・診療所別、診療科別の医師数は、医師の男女構成比により大きな影響を受けることがわかりました。

 女性医師は、結婚することにより配偶者の転勤の影響をうけて勤務する場所が動くことになるでしょう。また、高等教育を受けた医師は子弟の教育を考えると子弟の教育には熱心となりますし、特に母親である女性医師は子弟の教育環境として充実した地域を勤務地を選ぶ傾向が強くなる可能性があります。
 女性医師と結婚した男性医師の勤務地選択でのイニシアチブも、家庭内でもお互いに医師として尊重しあう環境にあると推察されますから、男性医師・女性医師が合意できる場所である都市部に勤務地が集中するという結果を導く可能性があります。

 このように、近年4割程度を占めるようになった女性医師の増加は、過去の医師の診療科別・業務の種別(働き方)とは違う医師の分布を示すことになり、実際の医師の労働力に影響を及ぼしていると推察されるのです。そして、特定の診療科や地域で医師の(労働力)不足が顕在化するものと推察されます。

医学部の入学定員との関係

 医学部の入学定員増について、医師の中でも賛否両論があるようですが、女性医師の働き方は男性医師と同じでないという事実をふまえたとき、医学部の入学定員増は必要不可欠であるといわざるを得ないと考えます。ではどの程度まで増加させるべきなのでしょうか。

 労働力という点からだけ見たときには、おそらく今回の入学定員増前の少なくとも1.15倍程度を越えて増加させる必要があると考えています。

理由は以下のとおりです。

極大雑把に

(全医師が男性で構成されていた場合の労働力)

=((男性医師の平均的労働力)×(男性医学生の比率)+(女性医師の平均的労働力)×(女性医学生の比率))×(新卒医師数の増加率)

とします。

生涯を通じた(女性医師の平均的労働力)を男性の70%とした、新卒女性医師の割合を4割とした場合、医学部入学定員増加前の定員に対する増加後の定員の比をAして、

(1.0X0.6+0.7×0.4)×A=1.0

と置き、この式をAについて解くと、A≒1.14となります。つまり、いま述べた前提で、女性医師の増加に対応するためには、14%程度の医学部定員増が必要ということになります。

女性は、病院より診療所を働き場所として選び、診療科として外科などを避け、非常勤医として働く場合の時間が短いとすると、最も女性医師の労働が減少する診療科での医療需要を満たすためには、14%増より多くの医師を養成することが必要なるのでしょう。その程度は、現在具体的な根拠はありませんが、25~30%増程度になるのではないかと想像しています。

もちろん、医学部に入学する学生に性別で制約を設けたり、診療科の選択を制約させるなどということが行われれば、以上で述べてきた影響は軽減されます。しかし、このような制約は、憲法上の権利である職業選択の自由への制約になりますので、広範な議論が不可欠となり軽率に実施するべきものではありません。

 

 先週、東京大学公衆衛生学の小林 廉毅教授と石川県立看護大学でお会いし、昼食をご 一緒しました。小林先生も私が使用したのと同じ素データを使い、医師の地域分布についての研究をなさっていて、先ごろその研究を論文として公表されています。しかし、この男女構成比が、診療科構成に及ぼす影響については気付いていらっしゃらない様子で、いままでここで紹介した研究結果について食事をしながら、お話をしました。(小林先生は私が筑波大学にいた頃、筑波大学教授として在任しておられて、数年ぶりにお会いしました。)

 もっと、このような要因について、いくつかの学会・研究会でこの結果は報告し、社会保険旬報でも産婦人科医について記事を書いているのですが、もっと、大きな声でいろいろな方にお伝えしなければならないのかもしれないと反省しています。

なお、本研究の結果概要は、2007年11月末に厚生労働省医政局総務課に提供している。(偶然、省内での検討の時期と一致していたのかもしれないが、医師数の不足を明確に厚生労働省が発言し始めたのはこの直後だった。この研究が、医師数に関する考え方の整理に若干でも役立ったのなら、厚生労働科学研究として一定の役割を果たしたといえるだろう。)

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麻生首相発言の問題点は、医師不足の責任転嫁にあることを忘れてはならない。

麻生首相の陳謝・発言撤回は、枝葉末節に対して陳謝・発言撤回をすることで、論旨全体から目をそらす作戦であることに注意を払う必要があります。麻生発言の趣旨は、医師不足の責任は医師にあるというものです。

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麻生首相が医師確保に関して行った発言が話題となっています。新聞の報道も、麻生首相の釈明・陳謝も、発言の一部の言葉(『社会的常識が欠落』)に集中しています。しかし、『社会的常識が欠落』という部分が麻生首相の今回の発言の最大の問題点なのでしょうか?

全体を読むと、麻生首相の論旨は次の通りです。

「医師不足は大変である。」

「医師不足の原因には制度上の問題もある。」

(しかしそれよりも、)「ここまで医師不足がひどくなり問題化した原因は、医師にある。」

(しかたがないので)「政治として制度改革はする。医師の数合わせも考える。」

この論旨を、日本医師会も医師たちも不問に付すのでしょうか?撤回陳謝したのは、この論旨の入り口の枝葉の部分にしか過ぎません。

麻生首相の発言の本論である「これだけ(医師不足が)激しくなれば、責任はお宅ら(医師)の話ではないんですかと、お医者さんの。しかもお医者さんなんか「減らせ、減らせ、多すぎる」と言ったのはどなたでしたかという話も申し上げた。」という部分を忘れた、枝葉末節の争いは、麻生発言の主張自体を容認しているともいえます。

医師会が、その医師数抑制に強く反対しなかった背景が何であるかについては、考える点もあるかもしれません。しかし、現在の状況を生んだ医師数抑制政策は、需要に対する供給過剰という予測であり、その予測と医師需要誘発理論に基づく医療費増加防止が必要という論旨を根拠としたことをわすれてはなりません。

以下参考資料

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麻生首相の釈明(新聞各紙より引用)

唐沢日本医師会会長に対し
「言葉の使い方が不適切だった」
「医師の価値観が(一般の人と)違うことを強調した流れで、『社会的常識が欠落』という言葉を使ってしまった。撤回し、謝罪いたします」
麻生首相:「医師常識欠落」発言 首相、日医に謝罪
毎日新聞 2008年11月21日 東京朝刊

「価値観が違うことを強調したかったが、言葉の使い方が不適切だった」
中日新聞 2008年11月21日 朝刊

記者に対し
「(唐沢会長には)丁寧に真意のほどを説明して、理解を求めるようにさせていただいたということだと思う」
麻生首相:「医師常識欠落」発言 首相、日医に謝罪
毎日新聞 2008年11月21日 東京朝刊
「(唐沢氏に)丁寧に真意を説明して理解を求めた」
中日新聞 2008年11月21日 朝刊

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麻生首相発言要旨(毎日新聞より引用)

麻生首相:医師確保に関する発言 要旨
 麻生首相の全国都道府県知事会議で行った、医師確保に関する発言の要旨は次の通り。

 医者の確保は、自分で病院を経営しているから言うわけではないが、大変だ、はっきり言って。社会的常識がかなり欠落している人が多い。うちで何百人扱っていますからよく分かる。ものすごく価値観なんか違う。そういう方らをどうするかっていうのは真剣にやらないと。

 小児科、(産)婦人科が猛烈に(医師が)足りない。急患が多いからだ。皮膚科なんか水虫の急患はいない。だったら(多忙な診療科は)その分だけ(診療報酬の)点数を上げたら、どうですかと。いろいろ言っていると問題点がいっぱい指摘できる。(以前)必ずこういう事になると申し上げて、答えが出てこないままになっている。

 これだけ(医師不足が)激しくなれば、責任はお宅ら(医師)の話ではないんですかと、お医者さんの。しかもお医者さんなんか「減らせ、減らせ、多すぎる」と言ったのはどなたでしたかという話も申し上げた。

 臨床研修医制度の見直しは改めて考え直さないといけないし、大学の医学部定員は過去最大級まで増やしたが、今からは間に合わない。目先のことをどうするか、医師不足を真摯(しんし)に受け止めないといけない。

毎日新聞 2008年11月20日 東京朝刊

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